マニアックながら居心地のいいご近所カフェ
店名は日本式ローマ字表記で「MITUYA CAFÉ」とつづる。由来は毛利元就の「三本の矢」の故事にちなんだものだ。マスターの矢波さん、奥さん、娘さん3人の苗字の「矢」を一つにとりまとめ、力を合わせてやっていこうという決意から命名された。
開業は2008年の12月。建設機械のレンタルサービス会社に勤めていた矢波さんは、定年を迎える4年前に退職を決意し、それまで住んでいた苫小牧を引き払い、札幌の実家をリフォームしてジャズ喫茶をはじめた。
「親の介護やいろいろなことがたくさん重なって、じっくり考える時間はなかったですね。近所の喫茶店はどんどん廃業していくころだったので、親しい人たちからは『どうしてこんな時期に?』と反対もされました」と矢波さん。
大 きな手を入れたのはカウンターや厨房と、床の畳をはがしてフローリングにしたことぐらい。椅子やテーブルなどは、家で使っていたものや中古家具屋で間に合 わせた。
開業準備にはおよそ半年かかったが、いちばん最初に出来上がったのが、店内でいちばん目を引く、タタミ2畳ぶんはあろうかという巨大な平面バッフ ルスピーカーのセットだ。
「平面バッフルスピーカー」とは、一枚の板(バッフル)にスピーカーユニットを備え付けだけのシンプルな構造だ。 箱はない。スピーカー作りが趣味の矢波さんが、OSB(オリエンテッド・ストランド・ボード)という面材にJBLの38㎝フルレンジスピーカーユニット D130と075ツィーターを取り付けた。
OSBとは広葉樹の丸太を細長い削片にし、これを接着剤で高温圧縮して再構成してつくられたもので、強度があるために反りが少なく、安価という利点がある。これを真空管アンプで鳴らす。
「このスピーカーの特徴は素直な音、ということでしょう。低音はちょっと足りないかもしれませんが、音量を小さくしても躍動感のある音が楽しめます」。
この巨大スピーカーとは別にJBL4348も設置されており、どちらでも楽しめる。「レコードは50年代から70年代ぐらいまで。それ以降の新しいものはCDですね」。
見事なオーディオ装置をそなえてはいるが、ジャズ好きの客ばかりではないので、求められないかぎりは、大音量でかけることはない。
常連は、近くの大学に勤める教員や毎朝、介護犬を連れて立ち寄ってくれるお年寄りなど。ペットもOKだ。そんなご近所の客たちのおもてなしをするのが、料理が大好きな奥さん手作りの、ランチをはじめさまざまなメニュー。
初めての喫茶店経営で矢波さんのように近隣とうまく協調しながら店を維持するのは容易なことではない。
喫茶店の廃業が続く立地で7年間も続けてこられたのは、自分の理想を追い求めるだけではなく、客が求めるものにも応えようとするプロフェッショルなサービス精神、そして開店のときの「三本の矢」にこめられた覚悟のおかげであるに違いない。(了)
※2020年2月29日閉店
photo & text by katsumasa kusunose@jazzcity
Mituya Cafe ミツヤカフェ
- 創業年月日:2008年12月
- 2020年2月29日閉店
- 住所: 北海道札幌市豊平区豊平5条8-1-6
- 所有ディスク数:レコード、CD合わせて約1000枚
- ライブ:なし
- メニュー:コーヒー400円〜 パスタ850円〜 ランチセット900円〜
- HP:あり/SNS: なし
<AUDIO>
- ターンテーブル:マイクロDDX1000、テクニクスSP10MK2 CDプレイヤー: アキュフェーズDP85
- プリメインアンプ:ラックスマンSQ38 プリアンプ:アキュフェーズC-290V パワーアンプ:アキュフェーズP1000
- クリーン電源:アキュフェーズPS-1200V
- スピーカー:自作(JBL D130+075)、JBL4348
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