サッポロのジャズの輪をつなぐ名物ジャズスポット ジェリコ/Jericho

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いつかはジャズの店をやりたいと熱望しても、簡単にその夢がかなうわけではない。「ジェリコ」のマスター、渋谷純一さんもそうだった。大学を出て、資金稼ぎをしながらジャズの勉強をしようと思って札幌の有名店「ジャマイカ」に勤めてみたのだが、ジャズの知識は増えたものの、3年経っても開店資金はゼロのままだった。

「高校のころから『アイラー』『ACT』『ジャマイカ』などのジャズ喫茶に通いはじめたんですが、ジャズをちゃんと聴くようになったのは大学生になってからでした。もともとはフォークソング部でリードギターを弾いていて、エリック・クラプトンなどのブルースロックを聴いていたんですが、レコード片面ぜんぶで1曲みたいな長くてうるさいものを聴いているうちにコルトレーンやアーチー・シェップを聴くようになり、ちゃんとジャズ喫茶で聴いてみたいなと。

「社会人になり、20代半ばごろから『ジャマイカ』で働きはじめたんですが、フリーからフュージョンまで、聴くものが広がりました。それまではコルトレーンさえ聴ければいい、ジャズすらもいらないと思っていましたから。『ジャマイカ』はバップが主流だったので、しっかり勉強させて頂きました。『ジャマイカ』のレコードを仕入れるときは『act:(アクト)』のマスターにはECM系の相談にのってもらいましたし、『ボッサ』のマスターは当時大きなレコード店の店長もやっていたので、『ボッサにはいらないけどジャマイカには必要だ』といっていろいろと譲っていただいたり。

「でも、その頃になるとキース・ジャレットの『ケルン・コンサート』やナベサダの『カリフォルニア・シャワー』がかかるようになり、店もヒマになりはじめて、あ、これからは飲み屋の時代だなと思うようになったんです」

「ジャマイカ」を辞め、次に働いたラーメン屋の店主に「出稼ぎ」をすれば手っ取り早くお金が貯まるよと教えてもらい、北海道を出ておよそ六カ月間、本来の仕事にさらにアルバイトを2件入れ、ひたすらお金を貯めた。

やがて札幌に帰り、廃業寸前だった飲み屋を又借りして開業したのが、渋谷さんにとっての最初のジャズの店だった。1982年、28歳のときだった。

家にあった700枚のレコードで店を始めたが、大好きなジョン・コルトレーンとその関連のものばかりだったのでリクエストに対応できず、慌ててピアノトリオやヴォーカル、ハードバップの名盤を買い始めた。客の大半は地元大学の学生たちだった。木造二階建てで、隣の店とはベニヤ板一枚を隔てただけだったが、楽器を鳴らしても苦情が来ることはなかった。

翌年、札幌の南3条にライブもできる物件を見つけた。初めての自分名義の店で、渋谷さんは「ジェリコ」と名付けた。由来はコールマン・ホーキンスのアルバムからだった。

「初めてのコルトレーンはジャズ喫茶で聴いた『クルセママ』だったので、店名も「クルセママ」にしようかとも思ったんですが、過激な店になりそうだからやめました」

「これみよがしにジャズを主張する店にはしたくなかった」ので、ジャズミュージシャンのポスターを飾ったりはしなかった。かわりに漫画本をたくさん置いて、落書き帳を用意し、テーブルやレンガの壁への落書きもOK にして、酒と食べ物に力を入れた「ジャズ居酒屋ジェリコ」と名乗った。

低料金で料理も美味いと評判になり、ライブを終えた後のプロのミュージシャンや近所のジャズ喫茶の店員など、ジャズでつながったさまざまな人たちがやってくる交流の場になった。ジョー・ヘンダーソンやジョン・ゾーンがやってきたこともあった。

「ウチでライブをやるようになったのはだいぶんあとでした。前の場所はすすきののど真ん中だったのでベースとのデュオとか、小さな編成ばかりで大きなことができなかったんですよ。ドラム叩いても大丈夫なところを探してみつかったのがここなんです。最初は週末だけだったんですけど、ライブって、やればやるほど次々とやりたくなって、それでいまに至ると」

昼もガンガン音が出せてドラム入りのライブができるようにと、25年前に現在の南3条西3丁目に移った。毎日ひたすら買い続けたレコードは5千枚を越えた。

ライブはひんぱんにやっているが、それは1日の営業時間のうちの3時間で、残りの8時間はCDやレコードを流している。

スピーカーは、最初はアルテック・バレンシアだったが、初代JBLオリンパスに買い替えた。山水電機がJBLの代理店として取り扱う以前の時代のものだ。

オーディオシステムの構築から調整までは、かつて「ジャマイカ」を手がけていた帯広在住のオーディオマニアにお願いした。

「そういえば最近、スゴい女の子が店に来ましたよ。飛び入りで歌ってもらったんだけど、アルバータ・ハンターみたいなの。これは逃しちゃいけないと思って、すぐにボールペンと紙を持って連絡先を教えてもらいました。

「今は地元のミュージシャンや板橋文夫、林栄一などの癖のある方達などを中心ににお願いしてます」

始発までやってくれという若い人に付き合うことも多いが、この店は死ぬまでやるつもりだと渋谷さんはいう。不景気だからと大家さんに2回、家賃を下げてもらった。1日3箱は吸っていたタバコはやめて、いまは毎日30キロぐらい走っている。(了)

photo & text by 楠瀬克昌

札幌「ジェリコ」ジャズ喫茶案内
札幌「ジェリコ」ジャズ喫茶案内
札幌「ジェリコ」ジャズ喫茶案内

jazz spot Jericho ジェリコ

  • 店主: 渋谷純一/創業:1985年4月13日
  • 住所: 北海道札幌市中央区南3条西3丁目西サンスリービルB1F◎市営地下鉄南北線「すすきの」駅より徒歩2分
  • TEL 011-231-2529 HP:あり/SNS:あり
  • 営業時間: 17:00 〜翌5:00 (休:定休日なし)
  • ディスク数 レコード、CD合わせて約5,000枚
  • ライブ 不定期
  • メニュー ビール400円〜 焼酎450円〜、ウイスキー600円〜 ショットチャージ900円、ボトルチャージ1200円 学割ショット、ボトルチャージともに800円(学生証提示)、おつまみ350円〜

<AUDIO>

  • ターンテーブル:マイクロ1500番、デノン局用コンソール/カートリッジ:オルトフォンSPUG/CDプレイヤー:デノンDCD-1610
  • プリアンプ:京セラC910ガス社デトラ/パワーアンプ:アキュフェーズM100×2、アルテック1569A×2、マランツモデル15
  • スピーカー:JBLオリンパス7Rドローンコーンなしの2ウェイ

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