札幌のジャズを守り続け、鳴り響くパラゴン
2003年まで、札幌・すすきのの近く、南2条西5丁目角には「札幌東映」という映画館があり、「ジャマイカ」は1989年(平成元年)までその地下で営業していた。店の向かい合わせが成人映画専門の「東映パラス」で、外から入るには同じ階段を降りなければいけなかったという。
札幌を代表するジャズ喫茶「ジャマイカ」の創業は1961年。最初の半年は「純喫茶店」だったが、チャーリー・パーカーなどをかけてみるとジャズ好きが集まりはじめ、やがてジャズ喫茶に変わっていった。
マスターの樋口重光さんにジャズを教えてくれたのは、札幌のジャズ喫茶の草分け「リドー」のバーテン、「田崎さん」だった。まだ高校一年生だったが、学校をサボっては憧れの田崎さんに会いに行った。
やがてジャズのレコードを買うために「ボン」というジャズを流す飲食店でアルバイトをはじめた。バイト代は月4500円。国内盤は1枚1950円。最初に買ったのは10インチ盤のアール・ボスティックだった。
高校卒業まで「ボン」で働き、「エンゼル」というダンスホールのマネージャーになる。毎日ジャズの生バンドが入り、修行中の富樫雅彦がいたこともあった。しかし「エンゼル」で火災が起き、樋口さんが大切に買いためたレコードはすべて焼失してしまう。
一時はジャズを聴く気力も失ってしまった樋口さんだが、「エンゼル」のジャズ仲間たちの明るさに励まされているうちに、この仲間たちが集まるような店をやろうと思いはじめ、3年後に開いたのが「ジャマイカ」だった。
「60年代の札幌の盛り場は睡眠薬やシンナーが蔓延していて、マスターはラリった客を見つけると『出てけ!』と怒鳴ってボカーンと殴っていましたよ。他のお客さんに迷惑だからって」とママの樋口ムツ子さん。
腕っぷしの強いマスターは高校生の頃から地元のヤクザの親分に気に入られ、勧誘もされたが断わった。
その親分は樋口さんが「ジャマイカ」を開業してからも心配をして何度か訪ねてきてくれたが「俺のようなモンが店に入れば迷惑がかかる」とドアから一歩も足を踏み入れようとはしなかったという。
幼い頃から「不良」だった樋口さんが道を踏み外すことがなかったのは、すべてジャズのおかげだった。
そしてジャズのためにすべてを注ぎ込んだ。
「札幌東映」から移転してからは、JBLスピーカーの最高峰「パラゴン」をはじめ、全国のジャズ喫茶でも類のない超ど級のオーディオ装置を惜しみなく店に入れた。集めたレコードは2万枚を超えた。
3年前、樋口さんは糖尿病の悪化のために両足を切断した。いまは店に出たくて仕方がないが、自宅で療養中だ。
年中無休でマスターの代役を務めるのは、マスターに負けず劣らずジャズには一家言あるというママさんとマスターの娘さん。
やわなジャズバーとは違い、エネルギッシュでぶっとい、ドスの効いた音をパラゴンから鳴らしている。
「ウチはジャズ喫茶だから」というマスターの信念を守り、昼間の喫茶営業も続けている。
最初に店を出した「札幌東映」跡地は、鳴り物入りだった再開発計画は頓挫、いまも駐車場になったままだ。
(了)
photo & text by 楠瀬克昌
※「ジャマイカ」のマスター、樋口重光氏は2016年5月12日、永眠されました。謹んでお悔やみ申し上げます。(ジャズ喫茶案内)
Jamaica /ジャマイカ
- 店主:樋口重光/創業年月日:1961 年8月27日
- 住所:北海道札幌市中央区南3条西5丁目3条美松ビル4F
- TEL: 011-251-8412
- アクセス:地下鉄南北線「すすき野」駅徒歩3分
- 営業時間:13:00-23:45 定休日 :日曜
- 席数:19 喫煙:可
- ディスク数:レコード約20000枚/CD約6000枚
- ライブ:年1回程度
- メニュー :コーヒー530円〜 ※18時以降はショットチャージ300円を加算
- HP:なし/SNS:なし
<AUDIO>
- ターンテーブル:トーレンス・プレステージ(2台)
- アーム:SME3012、EMT997/カートリッジ:オルトフォンSPU-GE、EMT TSD-15
- CD プレイヤー:ワディア270/D/Aコンバーター:ワディア・デジタル・デコーディング・コンピュータ
- プリアンプ:マーク・レヴィンソンML-1L/パワーアンプ:マーク・レヴィンソンNo.333L/トランス:パートリッジ TH7834-Ⅱ
- スピーカー:JBL パラゴンD44000
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