本田竹廣がこよなく愛した赤いレンガのジャズ空間
創業は1959年。おそらく、北海道に現存するジャズ喫茶では最古。ただ、最初の移転までの5年間は、シャンソンやウエスタン、ハワイアンなどの「洋楽」もジャズと一緒にかける店だったという。マスターの鎌田恒一さんも、もともとはシャンソンが好きだった。
60年代半ばごろからジャズファンの客が圧倒的に増え、ジャズ専門の店に変わっていった。
「店をやりながらジャズを覚えていったわけでして、だから私はジャズのことはぜんぜん詳しくないんですよ」と鎌田さんは謙遜する。
鎌田さんは、十勝で生まれ、高校を出て喫茶店のアルバイトなどいくつかの仕事をへて、札幌の中心から少し離れた琴似で店を構えた。サラリーマンをやったことはない。
「当時の大卒初任給は1万円ぐらい。それに比べればずいぶん儲かりましたね、最初の10年間は(笑)」
札幌は最大の繁華街すすきのにジャズ喫茶やジャズバー、ライブハウスが集中していて、そこから市営地下鉄で20分ほど離れた琴似となると、地元以外の客が流れこんでくることはほとんどない。なぜこの町で商売を始めたのか。
「すすきののような、人の多いところがどうもイヤだったんでしょうね」
物静かな鎌田さんから話かけてくることは少ない。
「ジャズ喫茶って、あんまり話さなくてもいいからね。突っ込んだ話をしなくてもすむ。だから、この商売を変えようかと、ずーっと悩んできてはいるんだけど、だらだらとやめられない(笑)」
いまは鎌田さん独りでこの店をやっているが、10年前までは亡くなった奥さんと2人だった。
「開業当初のお客さんは若い人ばかりで高校生もいました。店とともに客の年齢もあがっていって、だんだん、みんな、いなくなっていきます(笑)。息子の嫁さんが『私が継ぐ』と言ってくれてはいますが…」
鎌田さんの息子さんは、『ジャズ喫茶マスター、こだわりの名盤』(講談社)など、ジャズ喫茶をテーマにした書籍やムックの取材、執筆、編集で知られる鎌田竜也さんである。
1979年にこの店が入っているビルが新築され、店も3度目の変身を遂げた。それ以来、何も変わっていない。
店で使われている北海道の伝統建築のシンボル、赤レンガには、鎌田さんの特別なこだわりがある。
業者から新しいレンガが安いからと提案されたが、鎌田さんは、古いものを探してきてくれと譲らなかった。道内一の生産地、江別からやってきたレンガ職人の客が、その珍しさに驚いたという。
アルテック604-8Gはそのときに導入した。ほかの店で耳にして気に入って以来、欲しかったスピーカーだ。
鎌田さんが選んでかけてくれた、日本を代表するジャズピアニストのひとり、今は亡き本田竹曠のピアノの一音一音が胸に響き、沁みわたっていく。なんと心安らぐ時間。
本田竹曠が札幌に来たとき、彼はよほどこの空間が気に入ったらしく、朝までここで飲み明かしていったという。(了)
photo & text by 楠瀬克昌
Rondo ロンド
- 店主:鎌田恒一 /創業年月日:1959年10月17日
- 住所:北海道札幌市西区琴似1条5丁目4-18細川ビルB 1F
- TEL:050-7542-5499
- アクセス:札幌市営地下鉄東西線「琴似」駅から徒歩1分
- 営業時間:17:00〜0:00 定休日:日曜、祝日
- HP:あり/SNS:なし
- 席数:15/喫煙:可
- 所有ディスク数:レコ−ド約1,600枚、CD約800枚
- ライブ:なし
- メニュー:チャージ料金(ショット800円、ボトル1,400円)、ワンショット500円〜、コーヒーなどソフトドリンクはチャージなしで 600円〜
<AUDIO>
- ターンテーブル/テクニクスSP10MKⅡ
- カートリッジ/デンオン103
- CDプレイヤー/デンオンDCD1650AE
- プリアンプ/自作トランジスターアンプ
- パワーアンプ/自作トランジスターアンプ
- スピーカー/アルテック604-8G
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