最高のオーディオでジャズを気取らずに楽しむ
札幌一の繁華街すすきのの、目抜き通りの一角に「BOSSA 」がある。
雑居ビルの1階入り口には「2時間以内1850円でカクテル飲み放題」と書かれたジャズ喫茶らしからぬ(?)案内看板が。しかし、階段を上がり2階の扉をあけると、その懸念は一掃される。
店奥の右側には大量のレコードが収納された木棚を背に、テクニクスの往年の名機SP−10MKⅡを大理石に埋め込んだ特注ツインターンテーブルのDJブースがあり、左側の広いメインスペースでは一段高い壇上に設置されたJBLの最高級機MK9500k2が、ダイナミックでクリアーなジャズサウンドを客席に響かせている。
創業以来、移転は4回目。ずっとすすきのに店を構えてきた。
「すすきので一等地といわれても、田舎なんですからどこも一緒ですよ」とマスターの高橋久さん。
「JBLのパラゴンやエベレストも使ってきましたが、いまのがいちばんいい。ピアノ、ドラム、ベースそれぞれの楽器の音が混ざらないでキレイにわかれて出ますから」。
高橋さんが追求しているのはライブ感覚が味わえるオーディオのようだ。それは高橋さんが、たくさんのライブ興行をこの店で打ってきたことと無関係ではないだろう。
高橋さんは「BOSSA」のみならず北海道全域のジャズ興行のプロモートも数多く手がけ、北海道のジャズシーンのキーパーソンとして活躍してきたことでも知られている。店内の壁にはたくさんのミュージシャンたちのサインが書き込まれていたり、サイン入りのレコードが飾られていて、 ビル・エヴァンス、デクスター・ゴードン、ホレス・シルヴァー、ジョー・ヘンダーソン、そしてスティングたち大物の名もみえる。
北海道の古いジャズファンによく知られているのは、アルトサックスの名手ソニー・スティットの1982年来日公演の悲劇的なエピソードだ。
このときスティットは癌の末期で、成田空港に着いたときから車椅子に座っている状態だった。高橋さんは初日の旭川公演に立ち会うが、スティットは1曲目からフラフラとおぼつかない様子で、2曲目に入ったとき、見かねた周囲に制止されて退場した。
高橋さんによるとスティットが最後に吹こうとしたのは、彼が終生憧れたチャーリー・パーカーの演奏で知られる「ラヴァーマン」だった。
高橋さんたちは貸し切りバスの後ろに蒲団を敷き、スティットを札幌の病院に運びこんだ。スティットはそのまま入院し、「BOSSA」を含む残りの北海道公演は、ステージの椅子にスティットのサックスを置き、ピアノ(ジェイムス・ウィリアムス)、ベース(ナット・リーヴス)、ドラム(ヴィニー・ジョンソン)の3人によるピアノ・トリオで続行された。
北海道公演が終わったころにスティットは帰国して、4日後の7月21日に死んだ。
スティットの病状を承知の上で日本に送り込んだ米国のプロモーターは、その数カ月後に風呂場で転倒して頭部を強打し、急死したという。
「ジャズを聴きはじめたのは高校時代からです。当時、高校生はまだジャズ喫茶に行くのは禁止されていたんですけど、修学旅行のときに京都の『ビッグボーイ』に入ったのがいちばん最初でした。18の頃から札幌の『B♭ 』というジャズ喫茶でバイトを始めたんですが、なんでもやらされたけど、マスターにはいろいろお世話になりました。そして23でこの店を始めました。当時はそのぐらいの歳で店を始める人が多かったですよ。30歳ぐらいからという人はほとんどいませんでした」
「そのころはしゃべっちゃダメというジャズ喫茶が多かったけど、気楽にしゃべれて、ボサノバとジャズヴォーカルを流してればそれでいいんじゃないかと。だからこういう店名にしたんです。サウンドのクオリティは高くなりましたけど、ジャズ喫茶なんて気取ってもね、しょせん飲み屋ですから。えばってやるような仕事じゃないですから」
オーディオやレコードは最高のものを揃えて真剣にジャズを提供するが、お客さんには楽しく酒を飲んで気軽にジャズを聴いてほしい。1階入り口に立てられたジャズ喫茶らしからぬ 「飲み放題」の看板には、実は高橋さんの創業時からのポリシーがしっかりと反映されていたのである。(了)
Bossa ボッサ
- 店主:高橋久/創業: 1971年10月21日
- 住所:北海道札幌市中央区南三条西4 シルバービル2F
- アクセス:地下鉄南北線「すすきの」駅2番出口より徒歩2分
- TEL 011-271-5410
- 営業時間:11:00〜翌01:00 (休:元旦のみ)
- 席数60席(喫煙可)
- ディスク数:レコード約9,000枚、CD約5,000枚
- ライブ:不定期
- メニュー :コーヒー470円〜 ランチセット780円〜 カクテル90分飲み放題1,850円、ビール880円〜 チャージなし
- <HP:あり/SNS:なし>
<AUDIO>
- ターンテーブル:テクニクス SP−10MKⅡ×2台/CD プレイヤー:ソニーCDP-555
- プリアンプ:マランツSC1000/パワーアンプ:マークレビンソン336L
- スピーカー:JBL M9500 K2
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撮影・文 楠瀬克昌
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