函館の旧繁華街を元気づけるジャズカフェ
※「Leaf」は2018年10月より函館市松風町7−6に移転しました。本記事は移転前の取材、写真をもとに作成したものです。
函館駅から市電に沿って歩いて5分ほどのところに、かつては函館随一の花街、大森遊郭があった。その入り口には巨大な門があったため、この界隈は「大門」と呼ばれ、昭和9年にこの門が焼失したのちの今もその名が続いている。
大門は戦後も居酒屋、バー、喫茶店が立ち並ぶ函館いちばんの繁華街として栄えたが、北洋漁業の衰退にはじまる長い不況や、郊外への巨大複合商業施設進出のあおりをうけて、一時はシャッター街と化しつつあった。
しかし2003年のJR駅舎新装にともない再開発の気運が高まり、いまは30軒の屋台が集まる「大門横丁」を中心に新顔の店も増え、かつてのにぎわいを取り戻しつつある。
その大門の振興イベントとして毎年7月にプロ、アマが野外ステージで演奏する「大門ジャズフェスティバル」が行なわれているが、これをプロデュースする「音楽の街はこだて実行委員会」の委員長を務めるのが、「リーフ」のマスター、水山一嗣さんだ。
若い頃は大門が遊び場だったという水山さんがジャズを聴きはじめたのは高校に入学したころだった。
「親戚のおじさんに高校生になったんだからそろそろジャズでも聴くかと言われて、マイルスの自伝とかジャズの歴史書を渡されたんです。まずは本を読めと。レコードは聴かせてもらえませんでした。まずは読めと。つまんなかったですね。ジャズがいいとはぜんぜん思えませんでした。
「ジャズがいいなぁと思うようになったのはそれから10年たってぐらいからです。その頃は全国を営業で回るサラリーマンをやっていて、ジャズ喫茶もめぐりました。いま店に飾ってあるジャズ喫茶のマッチはそのころに集めたものです。
「いつかはジャズの店をやるつもりだったんですが、50を過ぎてぐらいからと思っていました。ところが知人の付き添いで物件を見に行ったら、そこは知人には狭かったんですけど、条件を聞いたらオレでもできるかなと思って、それでポーンと会社を辞めちゃったんです。原価計算とかそういうことをいっさい考える前に」
函館でいちばん飲み屋が多く集まる繁華街、五稜郭で水山さんがジャズバーを開いたのは1997年の2月だった。
「最初はあまりたいしたことのない装置でちょろっとジャズを流して団体客を入れてという感じで始めました。ただ、3年目ごろにJBLのスピーカーを入れたり、オーディオにも力を入れるようになって気づいたのは、ジャズをちゃんと聴いている客がいないということでした。もうイラっとしちゃって、『大声厳禁』『団体客お断り』にしたんです。昔のジャズ喫茶って会話もできなかったじゃないですか。カップソーサーを置くときのカチっと鳴る音も気にするみたいな。静かにジャズを聴けという趣向に変えたんですよ。
「当然、売り上げは3分の1に激減しました(笑)。こっちは真剣にジャズを伝えようと思って始めたんですが、おまえふざんけなよというクレームがお客さんから入ったり。瀕死の状態になりまして、ちょっと早まったなぁ、もうちょっとお金が貯まってからにすればよかったなぁって」
五稜郭で15年間ジャズバーを続けたのち、そこから撤退した水山さんは大門でジャズカフェを始める。カジュアルな雰囲気を心がけ、店内のJBL4350は狭いスペースに合わせてバックロードホーンはぜんぶ塞いで低音を抑え、定位とバランスの整った、小さめの音量でもクッキリと聴こえてくるバランスに調整をしてある。
天気のいい日は外にテーブルと椅子を出して、店の外に置いてある古いナショナル製スピーカーを鳴らす。ジャムセッションをやるときもあるという。
「苦情はぜんぜん出ないですよ。むしろ街が賑やかになるのでどんどんやってくれと。大門が元気にならないと函館が元気にならないということで」
大門でジャズカフェをやるようになってからは客層は20代が多くなり、女性客も増えたという。
「前のバーは2階でしたが、いまは路面店で窓から中が見えるので若い人も入りやすいみたいですね。オレ独りだと入りづらいだろうから若いスタッフも入れて。4年前までは坊主頭にヒゲだったんですが、それじゃ『入るな』って脅しているようなもんですから髪を伸ばしてヒゲも剃りましたし。『ジャズ詳しくないけどいいですか?』って遠慮する若い人が多いんだけど、ゆるく、敷居を低くして若い人にジャズを伝えていかないとね」
店が狭いため、ライブは近くの会場を借りている。
「経費を払ったら、残るのは筋肉痛ぐらい。函館の場合は1回のライブに20人来てもらうのもたいへんですから。 ブッキングは条件が合えばということでお願いしています。バーの頃はライブで赤字が出ても店を続けられましたけど、いまはもう、コーヒー1杯400円の商売ですから(笑)」
「函館のジャズ喫茶のオーナーの中では、オレより若い人がまだいないんです。あとがいないんですよ。だからジャズが好きで店をやって経営が成り立つんだという仕組みをつくってみせてあげてないと、若い人がジャズ喫茶をやろうとはならないと思うんですね。だからウチの店の売り上げを伸ばして、『リーフ』というジャズ喫茶はいつも混んでるなという部分も示してあげないとダメかな」
若い人たちを迎えいれるため、水山さんは今日も店の外に花を出して飾り、古い国産スピーカーでジャズを鳴らしている。(了)
撮影・文 楠瀬克昌
Leaf リーフ
- 店主:水山一嗣/創業:1997年
- 住所:北海道函館市松風町7-6
- TEL 0138-27-4122
- 営業時間:11:30〜17:00(カフェタイム)17:00〜19:00(休憩) 19:00〜24:00(バータイム)定休日:第1、第3月曜(当該日が祝祭日の場合は翌日休)
- 所有ディスク数:レコード、CD合わせて約3,000枚
- メニュー:コーヒー400円 ソフトドリンク300円〜 カクテル、ワイン、ビール各500円〜 手作りランチセット500円〜、日替わりのおつまみあり
<AUDIO>
- プリアンプ:自作真空管/パワーアンプ:自作真空管
- スピーカー:JBL4350(ツイーターH89、ドライバー2441、ウーハーLE15 )
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