全国屈指の大音量を誇る大人の秘密基地
札幌市営地下鉄東西線の「バスセンター」駅で下車。ひとつ隣の「大通り」駅のような喧噪はこのあたりにはなく、明かりといえば街灯ぐらいだ。地下鉄の出口階段を上がりきるあたりからどこからかジャズの音が聴こえてくる。
その音を頼りに少し歩くと、まもなく店の立て看板が目に入り、奥の事務所ふうの建物から元気のいいサックスの音が。大音量が自慢の店とは聞いていたが、隣近所に漏れっぱなしである。
「外から聴こえてました? あははっ!(笑)。ここは大丈夫なんです。まわりは駐車場ですし、隣の会社は午後6時になると誰もいなくなりますから」とオーナーの武田和久さんが笑いとばす。それにしてもデカい音だ。
「僕はいま61歳ですが、高校生のころにジャズ喫茶の洗礼を受けまして、あのころはみんな音が大きかったんですよ。ところが僕が店を始めてみると、世の中の流れが変わり、おしゃれなジャズバーあたりでおとなしく静かに流されるようになってしまいました。それってなんなの? って思っちゃうわけですよ。ジャズはカラダで聴くものでしょう? カツラが飛ぶぐらいの大きな音でなくっちゃ、あははは(笑)」
見たところカツラは装着していないらしい武田さんの本業はデザイナーだ。「Angel Eyes」をすすきのに開いたのは2004年。だが、本業に専念するために2007年にいったん店を閉じる。そのときに数千枚あったレコードやCDのほとんどはパソコンにリッピング(保存)して売却した。しかし常連たちの惜しむ声にこたえ、店舗付き住宅の2階を作業場にして1階で「Angel Eyes2」を再開した。
音源はiTunes。CDと同等のクオリティが保証されているApple Losslesデータを地階の店のパソコンと2階の事務所のパソコンでつなぎ、武田さんは手元のiPhoneで操作しながらJBLの名機を組み合わせた3WAYスピーカーシステムで豪快に再生する。
「音源は全部データ。CD4,000枚分ぐらい。1テラバイトぐらいのデータを2テラバイトのハードディスクに入れています。よくバカにする人がいるんですけど、聴いてから言ってくれないかなと。ウーハーがD130。これはもう、俊敏でバシっと反応がいいですね! スコーカーは扇型ホーン付き376。2インチのドライバーですが、これを聴くともう1インチは聴けないぐらいのインパクトがあります。ちょこんと乗っている丸いツィーターは2402。 このシステムならアンプは多少安いものでも問題ないです」
「たしかにやっぱりレコードのほうが音はいいですよ。オルトフォンSPUで聴くと、もうまるで違う。べつもんですよね。あれ以上のものを聴いたことがない。昔はレアなレコードもけっこう集めてたんですけど、やっぱり1枚2万円とか3万円とか言われちゃうと、それはどうかなぁと。半世紀も前のものよりも、新しいものがいちばんいいじゃないですか? たとえばニューヨークのミュージシャンたちの最新の作品は録音はいいし、スピード感もあるし、やってることが昔とはぜんぜん違うじゃないですか」
最初に武田さんが選んでくれたのは「シング、シング、シング」。ベニー・グッドマンではなく、最近のバンドによるカヴァー(楽団名は失念)。イントロの祭り太鼓のようなドラムの連打がズドン、ズドンと腹に叩き込まれる。全国のジャズ喫茶の中でも3本の指のひとつに入りそうな大音量だと武田さんに伝えると、「ホントですか!」と満面の笑顔を浮かべた。
「ロックもいいですよ」と武田さんはiPhoneの液晶に指を走らせ、オールマン・ブラザーズ・バンドの歴史的名盤『フィルモア・イースト・ライブ』をかけてくれた。時計の針はもう午前0時にさしかかっていたが、あたりをはばかることのない轟音が、理屈抜きでキモチいい。
武田さんのジャズ仲間には、家にはいいオーディオ持っているが存分に鳴らせないという人がたくさんいるという。ここはそんな仲間たちの「大人の秘密基地」なのだ。
まるでサークルの部室のような部屋の本棚に納められた本の大半はデザイン関係など武田さんの仕事にかかわるものだが、ジャズ雑誌や漫画も。全自動麻雀卓は常連客が持ち込んできたものだが、まだ実際に使われたことはないという。
(了)
photo & text by 楠瀬克昌
Angel Eyes 2 / エンジェルアイズ2
- 店主:武田和久 (創業:2007年)
- 住所:北海道札幌市中央区南1条東5-76
- アクセス:札幌市営地下鉄東西線「バスセンター」駅9番出口から徒歩1分
- TEL: 011-251-7829
- ライブ:なし
- メニュー:コーヒー500円〜 ビール500円〜(アルコールはショットチャージ1,000円)
- 所有ディスク数:iTunes (レコード、CD計約4,000 枚分)
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