すべてにおいて居心地のいい環境を作りたいと思っているんです
司会 後藤さんありがとうございました。第2部と関連する話もあったと思いますがそれはのちほど深めるということで。それでは中平塁さん、お願いします。
中平 よろしくお願いします。さきほど後藤さんからもお話ありましたけど、新宿にあった「DIG」は1961年に父が始めた店なんですけど、それは私が生まれる前なので、いまから話すことは、父から教わったことであったり、後藤さんのようにそのころ通われていたお客さんから教えてもらったことです。
その当時というのは、やっぱりおしゃべり禁止だったので、「DIG」に入ってきてコーヒーを頼むときもブロックサインで、指で「1」とやるとブレンド、目を指すとアイスコーヒー(場内笑)、「C(シー)」ってやるとコーラ。お酒も禁止だったんですね。
そうこうしているうちに、お酒も飲みたいしおしゃべりもしたい、自由なお店をもう一軒作ろうということで、(1967年に)紀伊國屋さんの裏に「DUG」ができたんです。それから(1977年)にもう少し駅の近く、新宿靖国通りのいまのアドホックの隣に「new DUG」というのを作りまして。地上3階、地下1階のビルで、上が喫茶店、地下がバーでした。
1983年に「DIG」が休業となり、1987年には紀伊國屋裏にあった「DUG」が、「バーニーズ ニューヨーク新宿店」向かいの「モアビル」の4Fに移転しました。「DUG」は紀伊國屋裏のころも、基本は喫茶でしたけど、ときどきジャムセッションをやっていて何枚かレコーディングをしてアルバムも出ていたんですけど、移転後は1995年から毎日ライブをやっていました。
その後「DUG」は、2000年に新宿靖国通りのケンタッキーフライドチキンのあるビルの地下2階に移転し、週2回程度ライブをやっていたのですが、2007年にそこを閉めます。いっぽうアドホック隣の「new DUG」は、1996 年から地上1階から3階の喫茶をクローズして地下1階のバーとして営業を続けていて、その地下1階に「DUG」を移転させました。そして店の名前を「new DUG」から「DUG」と変更し、昼間は喫茶、夜はバーとして営業を始めました。そのときに私がマネージャーとなり、いまに至ります。
父は日大芸術学部の写真科で写真をやっていて、そこでジャズを聴きはじめて、それがこうじて「DIG」をはじめたんです。それからジャズのミュージシャンを撮りはじめて、写真集とかも出させていただけるようになりました。海外にも出かけるようになって、いろんなミュージシャンと交流をするようになり、海外のミュージシャンも東京に来ると店に立ち寄ってくれるようになりました。今は(店でかける音源は)レコードじゃなくてCDだけになっています。それがちょっと残念なんですけど。
みなさんからは小さいころから家でもずっとジャズを聴いてたの? と言われるんですけど、意外にそうでもなくて、私は「DUG」で働く前はぜんぜん違う仕事で、町工場のプレス職人みたいなことをやっていたんですね。そこをやめることになって、1カ月ぐらいブラブラするつもりでいたら、父に「DUG」はいまちょっと人手が足りないから手伝ってよと言われて、(手伝ってるうちに)やめられない状況に追い込まれてしまいました(笑)。
それまでジャズってほんと聴いたことがなかったんですよ。自分からレコードを買うことってほとんどありませんでした。ただ、聴いてなかったかというとそうでもないんですね。もちろん家にはレコードもいっぱいありましたし、やっぱりね、ジャズがかすかに流れていたから、なんとなく刷り込まれていたものがあったと思うんです。
そうこうしてる間に私も20年近く働かせてもらってるんですけど、私みたいな何の知識もない人間でも、働きだして20年も聴いてるとやっぱりいろいろ覚えてくるものですね。
うーん、なんだろうな、ジャズ観というのはみなさんとは違うのもかもしれません。 いまはどこ行ってもジャズって流れてるじゃないですか。居酒屋さんに行ってもラーメン屋さんに行ってもお蕎麦屋さんに行っても。だから、(ジャズって)イージー・リスニングなのかなとは思うんですよね。それだからこそ、「いーぐる」さんで聴きたいとか、「DUG」で聴きたいとかってなるのでは。
じゃあ、その魅力は何なのかというと、さっき後藤さんがおっしゃったように、「レコード」や「音楽」や「ジャズ」と、お客さんとの距離感ですかね。そのバランスがどこか崩れるとやっぱりおかしいことになってしまうじゃないかなと感じますね。
司会 「DUG」は、音楽とお客さんとの調和がとれた雰囲気、店全体が生み出すハーモニーが素晴らしいですよね。
中平 どこかで特化しているのもいいかもしれないけど、すべてにおいて居心地のいい環境を作りたいとは私は思っているんですよね。
司会 喫茶店としての機能に徹しているというか、ある種のおしつけがましさがない。
中平 そうなんですよね、たしかに。それと、いま学生さんとか若い人にもジャズが好きな人が多いんですよね。ただ、何から聴いていいのかわからないということがたまにあるんです。そういうときは、いまかけているのはこれだよと教えてあげたりとか。
何か買おうと思うんだけど、何がいいですかと訊かれたときには、私は、これはちょっと邪道かもしれないけど、コンピレーション・アルバムをおすすめしています。名曲が集められたものを買ってみて、そのなかで気に入ったものがあれば、そこから掘り下げていけばいいんじゃないかと思っているんです。
司会 「DUG」って、おそらく全国でもジャズ入門者がいちばんやってくるジャズ喫茶じゃないかと思うんです。テレビの露出も多いし、いちばんマスコミで取り上げられています。村上春樹の小説(『ノルウェイの森』)に出てくるといった話題性もありますし。
中平 はい、そうですね、あと、60年代や70年代に通ってきていただいていたお客さんから、新宿に来てみたら看板をみつけて「まだあるんだ。学生のころはよく来てたよ」と言われるのはすごくうれしいですよね。やっぱり長く続けることは大事だと思います。
司会 お父様はいまでも夕方は店に来ていらっしゃるんですか?
中平 はい、ほとんど毎日来ています。
司会 お父様がいらっしゃるときにお父様の本を買うと、サインをしていただけたりするんですよね。ふだんは店ではCDのかけ方とか、そういう指導はお父様からいただいたりはするんですか?
中平 うーん、たとえば、かぶらないようにとか。ヴォーカルが好きだからってずっとヴォーカルをかけるとか、そういうことがないように、まんべんなくかけなさいとか。
司会 そういうのはやんわりとアドバイスされるんでしょうか。
中平 そうですね、まちがっているわけじゃないんだろうけど、父が気に入らないなと思うとピッと替えられちゃったりとか(場内笑)。
司会 それ、わかりやすいですね(笑)。
中平 「いまはそんな気分なんじゃないんだよなあ」とかだと思うんですけど。
司会 たぶん「流れ」が違うということなんでしょうね。「この雰囲気でそういうものをかけるのは」という。
中平 そうそう。
司会 そういうことを20年近くやってこられたということですね。ジャズを身体で覚えていくという。
中平 そうですね、身に付いちゃうというところがあったと思います。
司会 いまはご自身の創意工夫でお店をまわしていらっしゃるんですか?
中平 そうですね、いわゆる名盤もかけるんですけど、私がわりと新譜をなるべくかけたいなというのもありまして、時間帯によってなんですけど。店でライブをやっていたということもあるので、気がついたらライブ盤をかけていることもありますね。
司会 「DUG」でのお仕事は最初はライブ関係からはじめられたんでしたっけ?
中平 いえ、最初は喫茶のほうでした。もともとライブの店ではなかったんですけど、ケイコ・リーさんが遊びに来てくれて、「ここでもライブもできるじゃん」と言い出されたのがきっかけで、ピアノを買ったり、PA入れたりしてライブもやるようになりました。
司会 それでライブにもご興味を持たれるように?
中平 やっぱりライブって即興じゃないですか。ハプニングとか、いろいろあるんで、それがすごいおもしろかったですね。
司会 ゆくゆくは「DUG」もまたそういう展開もお考えですか?
中平 いずれやりたいとは思っていますけど、なかなかいまのご時世で新しいお店を展開するのは厳しい状況なので、まずはいまの現状を維持しないと。
司会 それでは、これからかけていただく音源についてのご説明を。
中平 今日持ってきたのはカーメン・マクレエの「アズ・タイム・ゴーズ・バイ/ライブ・アット・ザ・ダグ」。その1曲目の「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」を。1973年の録音になります。
後藤 これ、僕は現場にいましたよ。
中平 カーメンさんはこのときはお腹が空いたらしくてラーメンを立てつづけに2杯食べて、〝ラーメン・マクレエ〟と言われたそうで(場内爆笑)。
司会 「DUG」でかけるとよく似合いそうな素晴らしい音源ですね。
中平 最後になりますけど、今日私がコピーしてお配りした記事は、雑誌の『ぴあ』が昭和47年の創刊号のときにいろいろとジャズの特集を組んでて、ちょうどウチも載せていただいたので、なにかの参考資料になればと思います。ありがとうございました。
ジャズと他のジャンルの境界線上にある音楽を教えてもらった
司会 中平さん、ありがとうございました。それでは3番目は、3月8日に『Jazz The New Chapter 4 』(以下『JTNC4』)を出版されたばかりで、非常にお忙しいところだと思うんですが、その監修者の柳樂光隆さんです。よろしくお願いします。
柳樂 えーと、僕は音楽評論家をやってまして、『Jazz The New Chapter』なんて本を(シリーズで)4冊出しているんですが、これはロバート・グラスパーというジャズ・ピアニストを中心にいまのジャズの状況について書いた本で、ロバート・グラスパーって、ジャズとかヒップホップとかを融合した音楽をやっているジャズ・ミュージシャンで、彼のジャズだけの側面じゃなくて、ヒップホップとかロックとかの面も含めて多角的にとらえた本なんです。
僕もロバート・グラスパーと同じ38歳で、ふだんはジャズだけを聴くわけじゃなくて、ヒップホップもエレクトロニック・ミュージックとかも聴いているし、クラシックもちょっと聴いたりみたいな感じなので、「いーぐる」の後藤さんみたいにジャズプロパーじゃないんですよね。
司会 いや、後藤さんもR&Bとかファンクとかもかなりお好きなようで、ジャズだけじゃないですよ(笑)。
柳樂 僕がジャズを聴きはじめたのって、2000年前後くらいで大学生だったんですけど、そのころって、ジャズ喫茶はいまとあまり変わらない状況で、もう、いっぱいあったというわけじゃなかったですね。
で、(ジャズ喫茶は)僕の世代とはなじみのあるものではなかったんですけど、たまたま僕が行ってた大学の近くにジャズ喫茶があって、当時僕は、はっぴいえんどとか、はちみつぱいとか、日本の古いロックが好きで、そのころ付き合ってた彼女が、なんか喫茶店に行ったらはっぴいえんどがかかってたよと、じゃあ、行ってみようかと。
司会 それが「プー横丁の店」ですか?
柳樂 そうですね。国分寺にある店で、いまは別の店主がやっているんですけど、そのころは下北沢の「いーはとーぼ」という喫茶店で働いてた人(渡辺千尋氏)がやっていました。基本的にはジャズ喫茶なので、(店主は)マイルスとかコルトレーンが好きで。ただジャズだけじゃなくて、ブラジル音楽とかレゲエとかアフリカ音楽とか、そういうのも混ぜてかけるような店で、そのときどきに働いているバイトの子とかが持ってくる新しい音楽もけっこうかかっていたので、まあそこでジャズを教えてもらいつつ、ほかの音楽も教えてもらったりというのが僕のジャズ喫茶初体験ですね。
司会 「いーはとーぼ」はブラジル音楽とかレゲエが専門のようなイメージがあったんですが、マスターはジャズもかなりお好きのようですよね。
後藤 「いーはとーぼ」のマスターは大昔うちの従業員だったからね。
柳樂 今沢(裕)さんですよね。
司会 そうだったんですか。今沢さんは南青山のレコードショップ「パイド・パイパー・ハウス」のスタッフだったということまでは聞いたことがありましたが。「パイド・パイパー・ハウス」店長の長門芳郎さんは、昔、後藤さんが経営していたロック喫茶「ディスク・チャート」のスタッフでしたが、そのあたりからのつながりなんでしょうね。
柳樂 僕がジャズ喫茶で教えてもらったアルバムって、もちろん、いかにもジャズ喫茶でよくかかるビリー・ハーパーみたいな、ああいうのもあるんですけど、たとえばエルメート・パスコアールであったり、エグベルト・ジスモンチなど、ジャズと他のジャンルの境界線上にあるような音楽をけっこう教えてもらったのが僕には大きかったです。
司会 「ジャズ喫茶」ということは最初から意識してたんですか?
柳樂 いちおうジャズ喫茶ということになってたみたいなんで、意識をしていたとは思うんですけど、ただジャズがあんまりかかんないジャズ喫茶だとは思ってましたね。2000年ごろなので当時はクラブがとても活況で、僕の同級生とかはみんなDJとかやっていて、ヒップホップとかテクノとかハウスとかをかけたり、同じように古いジャズとか、ソウルとかファンクとか掘ってきて、そのなかから踊れるものを探してかける、そういうのがすごく流行ってたんですけど、なんか僕はちょっと違うというか、アルバムのなかの1曲をただ抜いてかけるのがそんなにすごくピンときたわけじゃなくて、どちらかというとアルバム1枚聴いたり、片面聴いたりするほうが好きで、ただ、家で聴くよりは音量がちょっとでかいほうがよくて、しかも自分の知らないものをよくかけてくれる場所がよくて、それが(ジャズ喫茶が)自分にとってよくフィットしたという感じです。
司会 ジャズ喫茶についての予備知識はあったんですか?
柳樂 ないです、ないです。
司会 たまたま?
柳樂 そうですね、そこによく通って卒論の資料を読んだり。そういうお店を好きになってから、(2007年に)閉店する前の「ちぐさ」とか(吉祥寺の)「メグ」とか、いろいろジャズ喫茶巡りを。
司会 ジャズ喫茶をいろいろと知りたくてですか?
柳樂 そうですね。ジャズ喫茶に行ってジャズ喫茶を知ったという感じですね。店主がジャズ喫茶の昔話をしてくれるわけですよ。「毘沙門」というフリージャズばっかりをかける店があったとか、吉祥寺の野口さんの「ファンキー」の系列でフュージョンばっかりかけてるチャラい店があったとか(笑)、いろいろ昔話をしてくれるので、なんか面白そうだなといろいろと行くようになりました。
よく行ったのは渋谷の「JBS」。あそこだとジャズというよりはどちらかというソウル、ファンク系が(マスターは)好きじゃないですか。ジャズ喫茶ではあまりかからないような、CADETのころのラムゼイ・ルイスとか。片面ぜんぶ聴かせてくれるから、DJがかけない曲も聴かせてくれるし。
司会 「いーぐる」さんとはどういう関係で?
柳樂 中山康樹さんと村井康司さんと後藤さんのイベントがあって、そこで僕が話しかけて自己紹介をしたんだと思います。当時僕はもう『Jazz Japan』とかに書いてたので。
後藤 中山さんの『ジャズ・ヒップホップ・マイルス』(NTT出版/2011年)が出たとき、「いーぐる」で関連イベントをずいぶんやりましたから。
司会 それまでは「いーぐる」に行ったことはなかったんですか?
柳樂 いや、客としてはよく行ってました。ただ面識はなかったんです。音もいいし、選曲もいいので好きでしたけどね。(場内笑)
司会 「プー横丁の店」以外でジャズ喫茶観が変わったとか、驚いたという店はあったんですか?
柳樂 選曲だと「いーはとーぼ」がすごい好きで、わざわざ下北沢に行ってましたね。「メグ」とかだと、いわゆるオーセンティックなジャズじゃないですか。大学生のころはそれだけだとしんどくて、ピアノ・トリオとか女性ヴォーカルばっかりだとかったるいなと思ってて。ただ「いーぐる」はすごく面白かったですね。知らないものばっかりかかるし。
司会 「いーぐる」でかかるものってちょっと変わってますものね。オーソドックスではないんだけど古いものも入ってるし、フュージョンのようでフュージョンでなかったり、非常にボーダーレスなところがある。
柳樂 うん、そうなんですよ。当時のDJカルチャーって、高いレコードを持ってるのがエラいとか、めずらしいものをかけるのがすごく価値があるという文化だったので。ただ、「いーぐる」でかかるものって、安いものばっかなんですよ(笑)。しかも国内盤とか。
後藤 あのー(笑)、私はね、あんまり廃盤志向というのがないし、これはもしかすると意見が違うかもしれないけど、ジャズ喫茶っていうとアナログ盤というイメージがある。それは僕はちょっとおかしいと思うんですよね。
音が聴ければいいと僕は思っているものですから。ウチは1967年開店ですので、買ったレコードのなかにはいまは高いものもけっこうあるけど、あんまりオリジナル盤とかアナログに対するこわだりはないんですね。
オーディオファン的な志向はなくはないけど、うーん、やっぱりね、ジャズをお客さんに伝えるということでいうとね、アナログってことにあまり拘泥しちゃうと、ふつうの人は入ってこれなくなっちゃうでしょう。オリジナル盤は高いし。好きな人は買えばいいし、文句をつけることではないんだけど、はっきりいって、演奏のクオリティとアルバムの値段というのはまったく相関関係はないですからね。
司会 高けりゃいいってものじゃないですからね。
後藤 いや、ただフェティシズム的にそういう、モノを集める人がいてもぜんぜんいいと思うし、非難するつもりはなくて、ただ僕にはそういう発想はなく、聴けりゃいいという感じ。
柳樂 僕もわりとそういう感じだったんで、DJがかけるものとも違うし、いわゆるふつうのジャズのガイドブックに載っている名盤とも違うし、しかもけっこう手軽に買えるものがかかってるという意味で「いーぐる」はよかった。
後藤 いやあ、柳樂さんからそう言われるとうれしいですね。ただ、僕としてはふつうのものをかけていて、とくに変わったものをかけている気はないですけど。
司会 客に対して、どうだこれはめずらしいだろうという意識は感じられないですね。
後藤 そういうのって、素人くさいじゃないですか。アマチュアでしょう、そういう発想は。稀少価値と音楽的価値とは相関関係がまったくないでしょう。
司会 いいものをかけているだけというシンプルな話。
後藤 当然でしょう、それは。高くたってたいしたことはないものもあるし、300円ぐらいで売ってる中古盤だって内容のいいものは山のようにありますし。そういうかんたんに手に入るものもお客さんに紹介して、それを買っていただければ。それが僕はジャズ喫茶の役割だと思うんですよ。
司会 べつにCDでもいいじゃないかという話を後藤さんがされると、オーディオには興味がないのかと思われがちなんですが、実は後藤さんはそうでもないんですよね。
後藤 僕もオーディオマニア的なところはありますよ。ただね、オーディオマニアということと、ジャズを聴くということとは、また別の趣味なんですよね。僕はこの店をやるうえにおいては、オーディオ的な知識は必要だから、それは勉強していますし、やっていますけど、僕の個人的なオーディオの好みでこの店のチューニングをしているわけじゃないですからね。
ジャズ喫茶をやるにはオーディオに対する知識は基本的にはなくてはだめだけれども、そこにずっぽりはまっちゃうというのはね、それはオーディオ喫茶になっちゃうからね。
それが悪いということではなくて、そういう店はあっていいと思うんですけど、ただそれはジャズ喫茶とは、オーバーラップしているところもあるんだけど、ちょっと違うんじゃないかなという気がします。
司会 ではここで柳樂さんに、「いまジャズ喫茶で聴きたいジャズ」というテーマで選んでいただいた音源をお願いします。
柳樂 いまニューヨークで活躍している黒田卓也というトランペッターがいるんですけど、「MEGAPTERAS/メガプテラス」という、彼が日本人のメンバーと一緒に結成したユニットが最近出したアルバム『フル・スロットル』から。
黒田さんはヒップホップとかネオソウルみたいなものが好きで、わりといまのトレンドっぽいものを作る人なんですけど、このアルバムはストレートアヘッドとまではいわないけど、即興も多くてジャズファンにはちょうどいいんじゃないかと思って選びました。
黒田さん以外はみんな日本で活躍している方々で、わざわざニューヨークまで行って録音したんですけど、あっちで作られているアルバムと音と同じ音がする、そういう意味でもすごくいまっぽい音がするんですけど、「ジャズ」ですよね。
司会 メガプテラスの最新アルバム『フル・スロットル』から、1曲目の<フル・スロットル>でした。それでは、つぎは「ロンパーチッチ」の店主、齊藤さんです。
(次のページへつづく)
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